回想 短歌 十首 剣持雅澄
オリーブは青き音符の実を揺らせ結ばれ難き愛の譜を練る
若きらに交りて駆けしこともあり島の渚に波立つところ
脆弱の世を射るごとくフェニックスは鋭き葉先虚空に曝す
晩鶯は抗死して啼く受験生よ無き力をも振り絞り出せ
現し世にあらがひ心持ちで生きふと爽やかな眸にとらわれる
幾度か我が星の時見逃して瀬戸海浜に老い深めゆく
母が嫁し我の生まれて育ちたる家の棟木の響きたて落つ
うはごとに金のことなど低く言ひ戦争未亡人の母逝きにけり
母嫁せし時のタンスは納屋隅に雪降る如き閑けさをもつ
父母に会ひたき心子に言へず日本の歌聞いてゐるなり