季語の歴史を説いた『季語の誕生』(宮坂静生著・岩波新書)

         
       宮坂静生著 『季語の誕生』評   
      
 数少ない季語の歴史を説いた意欲作。文学史を逆にたどると、俳句→俳諧連歌→和歌となる。
更には、万葉時代のはるか先、縄文時代の土器の文様、古代人の宇宙観にも言及している。
季語が生まれるまでのカオス(混沌)をいみじくも指摘しながら、本書はそれを解明してはいない。
 また、用語としての「季語」も指摘されていない。季節の歌はありながら、季語意識の有無・強弱が曖昧。
季節の主要な題目雪月花等「季の題」は第5勅撰集『金葉和歌集』(平安後期)に初見される。
季節の行き交う大和の国に四季の歌に四季を表す言葉が用いられるのは当然である。
 もともと『歳時記』は近畿を中心にして編まれており、著者の言うとおり北海道稚内など埒外になっている。
芭蕉によって季語の世界が変貌する。「各地の貌〈地貌〉に深く触れる体験」が季語に新しみを付加した。
かつて、蕉門では季語に関して古典的「竪題」と俳諧限定の「横題」が議論されていたらしい。
在来の季語だけでなく、新しい季語を発掘し、それはまた自分を新しくしたい願いでもあった。
正式の「季題」と熟するのは、明治36年森無黄が初めて当日いう。
 季語の歴史への入門書としてこの程度問題提起しておけば十分であろう。
次代に生きる我々は、伝統季語を大切にするとともに新季語の参入した『新歳時記』を志す責務があるだろう。