新しい女

樋口一葉と十三人の男たち』木谷喜美枝
 
 2004年、五千円札の「顔」に登場した頃の本書。タイトルで注目させようとして、この純情一途な閨秀作家・薄命の天才作家に不似合いの表題をつけたものだ。
 この度初めて本書をひもとく機に恵まれ、短い生涯にめぐり合った「男たち」をひとくくりにした本書のポイントをあげてみたい。
 
 半井桃水…師として、男として愛した唯一最愛の人。日記に書かれていないので、二人の仲が深く進行したかどうかは分からない。絶交後も二人の交流は続くが、一葉はもはや熱い視線をもって桃水を描くことはなかった。
 縁のあった男たち…婚約破棄の渋谷三郎・親しかった野尻理作・占い師久佐賀義孝・流行作家村上浪六
 文学界の男たち…文壇初めての来訪者平田禿木・生涯の友馬場胡蝶・編集人星野天知・文壇の寵児川上眉山
 名作を生んだ「奇跡の十四ヶ月」に出会った男たち…敏腕編集者大橋乙羽・辛口評論家斎藤緑雨・一葉を絶賛した森鴎外・最後の訪問者幸田露伴

 一葉は以上のどういう部類の男性にも卑屈にならず、ゆるぎない自信と誇りに生きた。相手が金持ちでも、名声があっても、媚びることも下手に出ることもなく、自分の力で生き抜こうとした。
 五千円札の一葉を見て「美顔」にうっとりするのも自由である。本書を読んであらためて感じたことは、つつましやかでありながら「男と対等に生きる女」ということである。旧来の女にはないしたたかさに敬愛の念を感じずにはいられない。
 
 わずか24年という短い人生に「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」等の不朽の名作を生んだ。結婚もせず子も生んでいない。本書は彼女の日記を丹念に読んで、特に男性とのつながりに焦点を当てた「したたかな女流作家」の賢明さが描かれた本である。