10年前の連句両吟〔夜半亭+雅舟〕

(バーチャル連句)芭蕉・宗鑑両吟「かきつばた」の巻

起首 平成二十年五月  十日
満尾 平成二十年五月二十三日

発句  有難き姿拝まんかきつばた     翁  夏
脇     呑まんとすれば湧く岩清水     宗鑑 夏
第三  いざさらば句碑見にはやる心にて  芭蕉 雑
四    つんぬめりたる竹薮の径     鑑  雑
五   名月に街中めぐり酒びたり     蕉 秋月
六    初子授かる爽やかな風      鑑  秋 

一   柿食えば奈良には古きお大仏    蕉  秋 
二    稚児に向かいて太刀抜いて追う  鑑 雑恋
三   初恋のなまめく文のたどたどし   蕉 雑恋
四    器用貧乏となりの庵主      鑑  雑
五   池静かトトロが消える水の音    蕉  雑  
六    反笠檜笠顔見合わせて      鑑  雑 
七   鷹一つ夢見続けて一夜庵      蕉  冬
八    置き去りの月天に凍ゆる     鑑 冬月
九   ひろうして草臥れて翁うらめしや  蕉  雑
十    呪われぬ前経読むとせむ     鑑  雑
十一  髪茫々容顔蒼し花見たし      不 春花
十二   春の酔夢の十穀聖        鑑 春
ナオ
一  松風のいかなる音色春ならん     鑑 春  
二    山路越え来てすみれ草咲く    蕉 春
三  追いつかん追いつかんとす笈負ひて  鑑 雑 
四    庵の柱に軽ろき瓢箪       蕉 雑
五  地獄へは落ちぬ祈りを歌に書く    鑑 雑
六    時雨の宿りこれが人生      蕉 冬
七  年忘れ嫗翁に額寄せ         鑑 冬恋 
八    老いて盛んな超厚化粧      蕉 雑恋
九  山寺と聞けば懐かしかの聖      鑑 雑恋
十   里に出ぬ日は何時も色事      蕉 雑恋
十一 さあ抜けと月下の閻魔に舌出して   鑑 秋月
十二  十王堂の御目に秋風        蕉 秋
ナウ
一  ちと用があるような鴫飛び立てり   鑑 秋
二   はや秋十(と)とせ故郷遙かに   蕉 雑
三  忘れ果て帰す所なき放浪者      鑑 雑
四   老懶見据え雲仰ぎ見つ       不 雑
五  二ツ笠いづれワキシテ花吹雪     鑑 春花
挙句  かけめぐるものみなうららけし   蕉 春

(留め書き)

俳祖宗鑑と俳聖芭蕉の邂逅という史実を超えた「バーチャル連句」に初参加させていただきました。これ
は私の宿願のようなもので、ただ学問的に両者を比較論じるのではなく、ロールプレイとして対話させた
かったわけです。この2週間があっという間に終わりました。これまで過ごしたどの2週間よりも充実し
た期間でした。対論と言うには短過ぎ、お互いに舌足らずになっているでしょうが、何かのとっかかりが
各所に散りばめられているかと思います。(参考)として簡潔に補記していただいたまとめが、これまた
俳諧連歌研究に資するものが提示されているかと思っています。
「宗鑑と芭蕉」と題して菊池寛記念館文芸講座(7月12日)で講ずるに当たり、急遽本巻を展開させて
いただいたことにただただ感謝するばかりです。それまでにもう少し自己研鑽しなければ受講者に申し訳
ありません。5月22日付け四国新聞文化欄には年間計画が掲載され身の引き締まる思いです。
 まずは、その基礎資料としてこの両吟を公開解説することになります。曲がりなりにも文芸作品でしょ
うか。共作・共詠であります。いわゆる「捌」という連句特有用語で、俳号不遜さんが捌です。右も左も
分からぬ俳号宣長は私めであります。役柄の念を押せば「芭蕉役=不遜」「宗鑑役=宣長」ということで
す。(5月23日・宣長

ネット連句では、下野と讃岐といわず地球規模で、この種のバーチャルものを瞬時にして行うことができ
るであろう。また、今回のように、タイムスリップして、それぞれが、それぞれのロールブレイに徹し、
この種のバーチャルものを瞬時にして行うことができるであろう。今回のバーチャルものは、その試行
として、いろいろの示唆を与えてくれた。と同時に、連句の基本は両吟にあることも身をもって実感し
た。(不遜)