「一夜庵」の風景描写(岡西維中)

  天和二年(1682) 岡西維中(西山宗因の門人)著

 八月六日讃州一夜庵にいたる。所の景色聞きしは物のかずならず。左の方にしほ山杳に高く右に有明の浜遠くさららかなり。白雲幽石を抱く庭際の有さま独木竹林にわたり小渓の風流〇滑にして雨にうるおひ松鳴て風をきく、まことに塵世の外を見る、宗鑑法師心を茅〇にとどめ眼を烟霞あかしめ給うふも、げにことはり也。天下の多景ここに集れり。さらにいふべきことの葉もなし。

  月白しこの一夜庵をいかむせむ

 後ろの山路を四五反ばかりにわたりて宗鑑の石塔り。草茫々と生じけり。徒に土中になかばしづめり。夕陽の僧折々落葉をはらふ。われも此処にきたりて終り、此塚のもとにふせらむ事を思ひ、一煙の香をひねりて感慨やまず。それより琴弾山の八幡に詣ず。