童話「注文の多い料理店」

「注文が多い」とは、客側から注文を多くつけられるという意味に取るのが普通ではなかろうか。ところが、この童話では反対で、料理店側が客に注文をつけるのである。二人の客が山猫軒という西洋料理店に入り、次々扉を開けて中に入っていくにつれ、注文をつけられる。「髪や靴をきちんとしてください」「鉄砲と弾丸を置いてください」「クリームを顔や手足に塗ってください」「大変結構にできました。さあさあおなかにおはひりください」…ここまで来て、二人は自分たちが食われる立場にあることに気がつき、がたがたふるえて、泣き出す。白熊のような犬に追われ、ほうほうのていで東京に逃げ帰る。(以上があらすじ)それではテーマは何か?

(1)賢治の註釈によれば、糧に乏しい村の子どもらの「都会と放恣な階級」に対するひそかな反抗。
(2)梅原猛氏によれば、「人間中心の殺害精神」に対する「慈悲の精神からの厳しい批判」「鋭い風刺精神」
(3)本全集の解説によれば、単純に自然の側(復讐者としての山猫の側)に立っているのではなく、われわれ人間を突き放す自然の哄笑のような、怖ろしいもの。

一体、文学作品を読んで、その言わんとすることをどう捉えるかは、読者に任せられている。(1)のように原作者の言に従わねばならないか。(2)のような大学者の説に従わねばならないか。はたまた(3)のような権威ある研究者の視点に従わねばならないか。それは全く自由である。虚心に読者が読み取った実感が最も尊いのである(雅)