通俗的結婚を痛罵(兼好『徒然草』)

 といふものこそ、の持つまじきものなれ。「いつも独りみにて」など聞くこそ、心にくけれ、「がしが婿に成りぬ」とも、また、「如何なる女を取り据ゑて、住む」など聞きつれば、無下に心りせらるゝわざなり。なる事なき女をよしと思ひ定めてこそ添ひゐたらめと、しくも推し測られ、よき女ならば、らうたくしてぞ、あが仏と守りゐたらむ。たとへば、さばかりにこそと覚えぬべし。まして、家の行ひ治めたる女、いと口惜し。子などで来て、かしづき愛したる、心し。なくなりて後、尼になりて年りたるありさま、亡きまであさまし。(『徒然草』190段)

⋯⋯恋愛情調を重んじる立場から、それに障害となるものの一切を痛罵していて快い。

四六時中同居する嫁取り婚の夫婦生活のもとで、男女相互の純粋な愛情が不純化されることへの警告である。