芭蕉と同姓の親友M

 自分の何人かの友達の中で親友と言えるのはM君であった。芭蕉と同姓だったので自ら松尾芭蕉と気取っていた。思春期中学二年生の頃、彼を噎せ返るように恋する時期があった。艶々した顔つき、優しく接してくれる安心感⋯彼が登校するのを待ちきれない思いで迎えた。他の同級生がなぜこんなに切ない思いで接しないのだろう。しかし他のやつにはやりたくない、独り占めしたいとさえ思っていた⋯あれは同性愛だったのかと今、振り返る。

 大学を出て初任地小豆島で教師になっていた時、寒霞渓に団体旅行で彼が来島した時、わずかな時間であったが再会した。画版を抱えた私と彼のにこやかなツーショットが残っている。絵葉書のように綺麗に写生した水彩画を彼に土産として持って帰らせた。長い間大事に額に入れて飾っていてくれたらしい。その後心臓を患っていた松尾君(我が芭蕉の君)は、先年私に先立って逝ってしまった。