小督の里での文学的日記

芭蕉紀行文集』岩波文庫
 
 今も京都の郊外嵯峨にある落柿舎。門人去来の別荘であった。芭蕉は元禄4年4月18日から5月4日までここに滞留した16日間の日記である。古来風雅であるこの地に篭もった機会に、一種の文学的日記を書こうとした。嵐山松尾神社の竹藪の中に「平家物語」の小督の屋敷を見て「うきふしや竹の子となる人の果」と憐れむ句を作る。孤棲の興趣を「うき我をさびしがらせよかんこどり」とも詠んでいるが、多くの門人が尋ねて来たり、消息が届いている。芭蕉は孤独を愛するとともに心の通う門人を愛していた。