先輩文庫より 『河田誠一詩集』

   河田誠一    1913~1952)


昭和初期に「天才」と評されるほどの詩や小説を書きながら、24歳の若さで亡くなった、仁尾町中津賀(現三豊市仁尾町)出身の詩人にして作家。……彼はまた、小説も何篇か書き残しており、その「豊麗無比な感覚」の輝きに眼を見張った友人の田村泰次郎がその早すぎる死を惜しんで切々たる追悼文を寄せている。その「天才河田誠一を悼む」によるとその天賦の才をまさに花開かんとしたときに、当時不治の病とされていた結核に倒れ、昭和9年2月高松の仮寓でひっそりと世を去った。
1940年9月30日、森谷均の昭森社より『河田誠一詩集』が刊行された。(時価 50万円) 装幀は草野心平田村泰次郎の「河田誠一の詩」と井上友一郎の跋文「河田誠一と私」
 
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   タンサンの泡だつたらう海峡の空は
   つめたく暮れた。
  なまあたたかいかぜの記憶は
  かすんだ雨のなく音。

   ボロボロの鳥。
   わたしの抱いてねたあなたの肉體は春であつた。

 
       
       暗礁

  燈臺をいだき
  まひる、海にしづむ人魚の妖艶なかなしみを思へ。
  灯よ。
  夜ごとむなそこにかんずる波のいのちに
  戦火とほくひびく空間の耳に
  春はおそろしき「無」を殺さむとす。