万葉花の世界

『万葉びとが愛した名歌に咲く花』大貫茂
 万葉びとに最も愛された花を五種挙げれば、萩142首、梅119首、橘69首、桜46首、紅(くれなゐ)29首。巻頭を飾るのは、立松和平のさらりとしたエッセイ「紫草と万葉集」で最も人気の額田王大海人皇子の相聞歌が紹介される。
 本書の構成は独特で、季節で分類せず、前半「美は歌心を誘う」、後半「花と暮らしの蜜月」となっている。これは花の美しさ観賞のみならず、万葉人の生活につながる花を大切にしようとする思い入れの現れとみて、共感を覚える。
 食用にもなった愛らしい花「須美礼(スミレ)」 縁起物にも使われた果樹「桃」 紫色の花が万葉びとの衣を染めた「杜若(カキツバタ)」 根が薬用にもなる多年草「茅花(チバナ)」など27種が選ばれている。
 未詳の花もある。「朝貌(あさがお)」は桔梗・彼岸花・昼顔など定まらない。
 巻末には1首だけに強い印象を残す10種「蕨」「堅香子(かたかご・カタクリ)」「浜木綿(はまゆう・ハマオモト)」「壱師(いちし・ヒガンバナ)」など堪能できる。