狸話の効用

『伊予の狸話』玉井 葵
 伊予の国が狸伝説のメッカであることは広く知られている。その波及は私の住む讃岐にも通じている。ここに紹介されているのに似た伝説が伝えられているので、よけいに本書に興味が感じられた。どこからが作り話で、どこらあたりが本当なのか、定かではない。いわば、化かされてしまうのだが…
 332編の「伊予狸話」重複も気にしていないようだ。聞き取りの意味を感じない著者。そういう時間がなく、意味を感じないと言うのがおもしろい。出典は51冊の書籍。ストーリーを持たない狸たち50ほどある。
 ストーリーを持ったもの…「あずき洗狸」が多い。あずき洗いの音の不思議というよりも一人のはずの女が二人いることに目を奪われるような話。柳田国男の「妖怪談義」にも触れられている話である。怖い話として語られたと思われるが、現在では、どこが怖いのか分からなくなっていると著者は言う。
 その他子細に見ていくと、なかなか面白い。狐のようにずるがしこくないから、弘法大師が四国に住まわせることにしたとも言う。化け方にも愛嬌があるからだとも言う。
 伊予には、人間と狸との相克、あるいは狸の復讐といった内容のものもある。困っている狸を見殺しにして、祟られた話である。狸同志の化かし合い、人間と狸の化かし合い、はては人間が狸を化かす話もある。
 いっそ狸話を作ってみようと、話好きの伊予人が、昔話風に狸話を作ったのではないかと推察される。