2024-05-28 萩原朔太郎「五月の貴公子」 五月の貴公子 萩原朔太郎若草の上をあるいてゐるとき、わたしの靴は白い足あとをのこしてゆく、ほそいすてつきの銀が草でみがかれ、まるめてぬいだ手ぶくろが宙でおどつて居る、ああすつぱりといつさいの憂愁をなげだして、わたしは柔和の羊になりたい、しつとりとした貴女あなたのくびに手をかけて、あたらしいあやめおしろいのにほひをかいで居たい、若くさの上をあるいてゐるとき、わたしは五月の貴公子である。 『月に吠える』より