#小説

私には失望は無縁だった

『あらすじで味わう昭和のベストセラー』井家上隆幸 一編のあらすじが本書では数ページにわたってくわしいので、ありきたりの粗筋ではなく、かなり細かいストーリーもわかる。多くは大衆文学である。 大佛次郎『鞍馬天狗』吉川英治『宮本武蔵』下村湖人『次…

大塩平八郎

『鷗外の歴史小説』尾形仂 七作品の考察がなされているが、「大塩平八郎」だけにしぼってみよう。 鴎外が歴史小説「大塩平八郎」を書く資料にしたものに幸田成友著「大塩平八郎」がある。これは綿密詳細な歴史叙述になっている。鴎外はその記述順序を組み替…

青の感覚

『星と半月の海』川端裕人 清冽で、シンプルな文章の、テンポのよさに引き込まれる。 表題作は、ジンベエザメを飼育・観察する女性獣医を主人公としている。「星」と「半月」が二頭に名付けたニックネームであることが途中で分かる。「わたし(リョウコ)」…

一陣の風になって

『風化する女』木村紅美 自殺した職場の先輩「れい子さん」を語る「私」の回想録(比喩的に言えば、挽歌)で、三十歳前の女性にしては心の襞の深さ、豊かさで好感の持てる小説である。 その先輩は一般事務職のままで二十年ずっとその会社に勤め、無断欠勤を…

果たさぬ恋

『一葉の恋』田辺聖子 さすがは女心の微妙さが描ける女流作家だ。文学研究家がたどる作品の論証には留まらないで、中井桃水へのほのかな恋心を憶測して、その深奥を活写している。 犀利な夏子は、それを察していた。彼女は桃水への恋心が、この世では果たせ…

一里塚幻想

豊島から毎日舟で通っていた子、一里塚里子。筆名として一里塚などという姓を付けてやった文才のある子。粗削りだが、人懐っこく、こちらの胸の奥まで忍び込んでくるようなひたむきなところがあった。 小豆島には一里塚などはなく、名付けられた名をけげんに…

花岡青洲の妻

青洲の麻酔薬はようやく完成しつつあった。と言っても、動物実験だけであり、この先、人間で試すにはどうすべきかと途方に暮れている。そんな青洲に、於継は実験台になると言い出す。それを聞いた加恵も俄かに、自分で試すようにと迫る。どちらも引かないの…

菊池寛記念館文芸講座予定

五木寛之新聞小説「親鸞」連載中

四国新聞連載中 五木寛之「親鸞―激動篇―」 四国新聞は本年一月一日から、再び四国新聞で「親鸞」の連載を始めた。四国新聞だけではない。他に地方紙四四紙で連載されている。空前の発行部数一七〇〇万部という。 これまで平成二十年八月から翌二十一年九月…

「龍馬伝」終わる

「大政奉還」 そして、海の向こうに開かれた世界を夢見ながら、大河ドラマの龍馬は、 今夜とうとう非業の暗殺、不帰の客になった。しかし、日本人の心に永遠に生き続ける。 「大政奉還」勤王党に属する維新の志士が、多く土佐に生まれた起因の一つに 勤王的…

鞠子

鞠子 もっとも抵抗力のある鞠子 その白い鞠子が舞い込んできて 我が家に住み着いている 円満具足の鞠子

じっと待つ

(ただ今、かつての同僚からこんな絵手紙が来ました) じっと待つ じたばたしないで 運命に身を任せて じたばたしても始まらない 果報は寝て待て そんな甘い考えではないけれど もうしばらく余生を楽しめる 猶予をひたすらに待つ じっと しずかに待つ 手足を…

まとめて絵手紙いただく

簡潔な言葉に、はち切れそうな写生画 絵手紙の魅力です。 これを始めて、数年になるのでしょうか。 すっかり上達していますね。 数枚の今日の作品はさらりとして 特に境涯は感じさせません。 恬淡として書かれたものか、元気な時のものか。 とにかく、すべ…

存在を訴えている 切られた山椒

今日、こんな絵手紙が届いた。 きっと山椒は怒っているいるのだ。 悲しんでいるのだ。 枝を突然切られて。 鋭い棘を出し、 芳香を放って、 存在を訴えている。 秋だというのに。

沖縄について語る資格があるか

我々日本本土に住み着いているものが、沖縄について語る資格があるか。もし、沖縄について語れと言われたら、辞退するのがいいのか。この際、にわか勉強でもいいから形ばかりでも間に合わせるのがいいのか、私には分からない。一旦引き受けたら、少しでも沖…

心の宿の宮城野よ

(宮城野萩の真っ盛り) 島崎藤村『藤村詩集』自序より 二十五六といふ青年時代が二度と自分の生涯には來ないやうに、最初の詩集も自分には二册とは無いものだ。その意味から、曾て私はこれらの詩を作つた當時のことを原本の詩集のはじに書きつけて置いたこと…