あなたは友人の詩に詠んでもらえるか?
唯一人、M(森川義信)は、詩人鮎川義信の代表詩「死んだ男」に詠んでもらえた。
Mよ、昨日のひややかな青空が
剃刀の刃にいつまでも残っているね。
だがぼくは、何時何処で
君を見失ったのか忘れてしまったよ。
短かった黄金時代ー-
活字の置き換えや神様ごっこー-
「それがぼくたちの古い処方箋だった」と呟いて⋯⋯
いつも季節は秋だった、昨日も今日も、
「淋しさの中に落ち葉がふる」
その声は人影へ、そして街へ、
黒い鉛の道を歩みつづけてきたのだった。
戦後詩の代表詩人鮎川信夫。彼の処女単行詩集の冒頭に置かれた詩。戦後の現実に取り残された「ぼく」は、戦病死した詩人のM(森川義信、三中出身)への呼びかけを通じて、死によって踏み荒らされた荒地に立ち向かう自己の姿勢を、あらためて見定めようとしている。(『日本の秀歌秀句の辞典』小学館)
森川義信「勾配」詩碑 香川県観音寺市粟井町本庄 森川義信生家前