今宵は十三夜

『十三夜』は、樋口一葉の短編小説。1895年(明治28年)12月、『文芸倶楽部』閨秀小説号に発表された作品 。お関が想いを寄せていて、車夫になっていた録之助と遇って別れる末尾は次のように印象深い。⋯左様ならばと挨拶すれば録之助は紙づつみを頂いて、お辞儀申す筈なれど貴嬢のお手より下されたのなれば、あり難く頂戴して思ひ出にしまする、お別れ申すが惜しいと言っても是れが夢ならば仕方のない事、さ、お出なされ、私も帰ります、更けては路が淋しう御座りますぞとて空車ひいてうしろ向く、其人は東へ、此人は南へ、大路の柳月のかげに靡いて力なささうの塗り下駄のおと、村田の二階も原田の奥も憂きはお互ひの世におもふ事多し。