いとし子よ

永井隆の著書『いとし子よ』

わがいとし子よ。

「なんじの近き者を己の如く愛すべし」

そなたたちに遺す私の言葉は、この句をもって始めたい。そしておそらく終りもこの句をもって結ばれ、ついにはすべてがこの句に含まれることになるであろう。

 これは多くの人が聞きなれた言葉であり、そなたたちも大きくなれば、たびたび耳にするであろう。なぜなら、これは人の守るべきもっとも大きな掟であるからである。

 己の如く⋯⋯人を愛す。

 言葉はまことに易しい。しかし、いざこのとおり行おうとすると、わが生命を棄てるところまでゆかねばならぬ場合も起こる。わが子よ、ここにこの句をあげたのは、言葉をおしえたのではなく、これをそなたたちが一生の間つねに行なってくれるようにねがってのことである。

〔解説〕身近な話題を取り上げて、やさしい文章の中に、わが子と、すべての人間に対する切々たる愛情がにじみ出ている。

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