石川ふさ江歌集『しらうめ』

特攻の夫を偲ぶ歌集『しらうめ』石川ふさ江著

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    特攻の夫を偲ぶ歌十首  

わが赤き糸手繰られて見合ひせし一宮の浜辺松風の響る

胸のうちを明かせぬ命を帯びてゐむ夫に常のごとくかしづく

幼子と夫の愛刀を胸に抱きグラマン機の下逃げまどひたり

旋回の機より落とせし通信筒よ夫がこの世に遺したる声

夫の骨を抱きて征くと愛弟子の込茶少尉は誌せり合掌をする

夫として暮したる日は短かりき思ひ至れば神かもしれぬ

香の残るもの風葬のごとく散りひた護りこし軍刀と子と

夫の辞世の載る新聞がとどきたり基地たりし知覧と言へる町より

明日は征く特攻隊士が胸に挿しし万世の桜今盛りなる

声もなく埋もれゐし夫を祀りたまふ春の光のかがやふ塔に