祖父の句を読む

『虚子百句』稲畑汀子
 
 人口に膾炙された虚子の名句中の名句を抜き出すと
  遠山に日の当りたる枯野かな(明治33年、26歳)
  桐一葉日当りながら落ちにけり(明治39年、32歳)
  金亀子(こがねむし)擲つ闇の深さかな(明治41年、34歳)
  春風や闘志いだきて丘に立つ(大正2年、39歳)
  蛇逃げて我を見し眼の草に残る(大正6年、44歳)
  白牡丹といふといへども紅ほのか(大正14年、51歳)
  流れ行く大根の葉の早さかな(昭和3年、54歳)
  海女とても陸こそよけれ桃の花(昭和23年、74歳)
  去年今年貫く棒の如きもの(昭和25年、76歳)
  彼一語我一語秋深みかも(  〃   〃  )
   この句を次のように解説している。
「静かですね」と彼が言い、虚子が「そうだね」と応じたのかも知れない。具体的な情景はさまざまに考えられるが、しかしそれはどうでもいいことなのである。そのような情景は一切捨象されて、二人の男の寡黙な対話だけが取り上げられている。そしてこの主客の姿に深まっていく秋の気配がひたと感じられたのである。見事な写生である。
  以上のように、祖父虚子の「俳句写生説」を強調し継承している。