『漱石の白百合、三島の松』

中公文庫最新刊 塚谷裕一著『漱石の白百合、三島の松 近代文学植物誌』

 漱石の『それから』に登場する白百合テッポウユリヤマユリか。植物オンチと言われた三島由紀夫の卓越した草木の描写を挙げてその汚名をそそぐ。 本文42頁 ※ 古事記万葉集には確かに百合が登場しているものの、その後は、日本文化では、少なくとも散文学レベルでは、百合を対象としない空白の時代が非常に長かった⋯⋯そして、「白くない白百合」の漱石の作中「白百合」の解析が始まる。漱石三部作『それから』は60年前私たちも国文科の演習で分担研究はしたが、この花などに注目した人はいなかった。「三千代が提げて這入て来た百合の花」が本書冒頭に掲げられると、俄然この百合の色香に迷わされ、ふらふらとなる⋯⋯ただ現在の私は万葉の花にのめり込んでいるので「小百合花」10回の用例にしか 主たる興味がない。