戦死した友人を憶ふ詩

 

  安藤孝雄を憶ふ 森川義信 『増補森川義信詩集』  鮎川信夫編 国文社刊

  ~昭和12年冬北支で戦死した友人安藤孝雄を憶ふ詩~ 

友よ お前は二十歳

ひととき朔北の風よりも疾く

お前の額を貫いて行つたものについては

もう考へまい

私は聞いた大きな秩序のなかに

ただ はげしい意欲を お前の軍靴の音を

わたしの力いっぱいの背のびではとどかない

流れよ幅広い苦悩のうねりよ

友よ二十歳の掌のなかで燃えたものよ

 

  死んだ男   鮎川信夫    戦死した親友M(森川義信)に向って呼びかけた詩

 

たとえば霧や
あらゆる階段の跫音のなかから、
遺言執行人が、ぼんやりと姿を現す。
――これがすべての始まりである。

 

遠い昨日・・・・・・・
ぼくらは暗い酒場の椅子のうえで、
ゆがんだ顔をもてあましたり
手紙の封筒を裏返すようなことがあった。
「実際は、影も、形もない?」
――死にそこなってみれば、たしかにそのとおりであった

 

Mよ、昨日のひややかな青空が
剃刀の刃にいつまでも残っているね。
だがぼくは、何時何処で
きみを見失ったのか忘れてしまったよ。
短かかった黄金時代――
活字の置き換えや神様ごっこ――
「それがぼくたちの古い処方箋だった」と呟いて・・・・・・

 

いつも季節は秋だった、昨日も今日も、
「淋しさの中に落葉がふる」
その声は人影へ、そして街へ、
黒い鉛の道を歩みつづけてきたのだった。

 

埋葬の日は、言葉もなく
立会う者もなかった。
憤激も、悲哀も、不平の柔弱な椅子もなかった。
空にむかって眼をあげ
きみはただ重たい靴のなかに足をつっこんで静かに横たわったのだ。
「さよなら、太陽も海も信ずるに足りない」
Mよ、地下に眠るMよ、
きみの胸の傷口は今でもまだ痛むか。