佐藤春夫の詩「海の若者」

 

  海の若者  佐藤春夫

若者は海で生まれた。

風を孕んだ帆の乳房で育った。

すばらしく巨くなった。

或る日 海へ出て

彼は もう 帰らない。

もしかするとあのどっしりした足どりで

海へ大股に歩み込んだのだ。

とり残された者どもは
泣いて小さな墓をたてた。