『あるじなしとて』天津佳之著

 東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな 菅原道真

 この歌の一句「あるじなしとて」を題名にした小説。後に太宰府に流された時の歌として知られるが、その前に讃岐守に左遷されている。心は自暴自棄に萎えていたのだが、この地を浄土として治水溜池造りなどを行った空海の想いを知るなど、真の政治家への道を歩み出す道真。学問の神様と言うより政治家としての心の入れ方を評価する、人間愛の道真を描いた小説。力作である。「たとえ我が名が残らなくとも、この国を救う」けなげな精神の持ち主道像の発見。(PHP研究所刊)