①二人の幼な子を残して逝かねばならない無念さ。敬虔なクリスチャンとして深い信仰心に支えられながらも、自らの死後、孤児として苦難の道を歩いてゆく子どもたちへの悲痛な思いが行間から溢れ出る。長崎医大の放射線科医師として勤務する中で被爆し妻をも失った著者。原爆症発症により迫り来る死を前に書き残した内容は、宗教・科学・人生の目的…と多岐にわたる。しかし、その根幹にあるのは、信仰に基づいた深い愛だ。一分一秒でも死期を遅らせ子どもたちの側に居てやりたいと願う親心。それを奪う非情さが原爆の本質なのだ。(Å)
②数年前に当時の同僚から紹介された本。原子病で亡くなった長崎の医師によるキリスト教的な手記で、2人の我が子を孤児にしてしまうことについての考察が中心的な内容です。フランクルの直後に本書を読むと、人生を意味あるものにして世を去った実例を見つけた思いがします。あるいは内村鑑三なら、後世への最大遺物を遺したと言うでしょう。かく生き、かく死ぬことが、人生の価値を高めるということ。(B)
③8月に長崎旅行に行った時、観光バスのバスガイドさんが「この子を残して」の一節を諳んじて紹介してくれた。それがきっかけで読んだ。被爆という悲惨な経験を業病を病んだ生身の被験者として誰恨むではなく、もっぱら自身の亡き後に孤児となるであろう二人の我が子に対する愛と想いに溢れた著述。特に「子に向かってもらした言葉」は、宗教に関係なく現代に生きる我々にも響く言葉である。(C)
④この映画のラストシーンでは、『長崎の鐘』がようやく出版された後で父が亡くなったという息子・誠一の言葉が語られる。
その直後に、柱時計を指さしながら戦争を二度と起こしてはならないと告げた父の姿に被さるように、8月9日11時2分に投下された原爆により浦上天主堂や町が被爆する映像が流され、「ちちをかえせ、ははをかえせ、としよりをかえせ、こどもをかえせ」という言葉で始まる峠三吉の詩とともに被爆後の人々の苦しみが実写も含めた映像が流され、圧倒的な説得力で観客に迫ってくる。(D)