旅先で見た何げないもの

イカ干しは日向の匂い』武田花
 日常では身近にいる猫が好きなのか、冒頭が猫の写真であり、本書フォト48枚中9枚が猫である。26篇の随筆は大半が外に出歩いて見たもの、何げないものが多い。美しい草花には興味がないように、場末の看板、樽瓶缶、というような類のものに注目している。文題も「裏口」「骨董市の人たち」「旅日和、小江戸川越裏通り」など地味である。
 表題作に「いか干しは日向の匂い」があるのかと思うと、いくら探してもないのである。肩透かしをくわされた感じだが、ちゃんとカバーには「いか干し」の写真がまさに「日向のにおい」が感じられる。能登の海辺だった。キーコキーコと音を立てながら、電気仕掛けでぐるぐる回っているイカは踊っているように見えた。イカが回っているだけでなんでこんなに楽しいのか?(あとがき)このように記されているが、なんだか淋しい気もしてくる。