幻聴「沓音」 Shot short

「あのね~沓音天神とかいう所に沓と字があったでしょう」
「そう、あったね、それがどうしたの?」
「夜ね、コツコツと音がして、復員して息子が帰ってくるかもしれんから、戸を少し開けて寝るんだという話⋯」
「そう、よく覚えてくれていたね。僕のお婆ちゃんのこと⋯」
「それと、宗鑑が菅公さんに腕を借りて字が上手になった話、ごっちゃになっていたかもしれないね」
「でも、うれしいな。どちらも覚えてくれていて、嬉しいな」
「別の話だったのか」
「それでも、二つの話がいっしょになって、あなたの中で奇しき物語になったね」
他愛もない昔師弟の小春日の小話でありました。
 〔追記〕観音寺には【沓音天神】なるものがあって、全国ただ一ヶ所の文学的伝奇をもっている。時代の違う名筆家・菅原道真が俳祖山崎宗鑑に書の手ほどきをしたというのである。八幡さんのある琴弾山に続く興昌寺山の麓に宗鑑の寓居「一夜庵」があって、ある夜 童子が現れ、「今晩一晩、汝の手を借りる」と言って、翌日返しに来て、それ以来天神さんのお蔭で書が上手に沓音天神 に対する画像結果なったという。これは寺伝『弘化録』に筆録されている。