「連翹の島」最終章

 たどってきた自分の道はすでに幻である。風化するには早い青春の風景も、悠子の心を過ぎたときは悠子の色を帯び、もう原色ではありえない。彼女らしい屁理屈であるようで、当人には動かせない実感となっていた。それはあったことではないかもしれない。ただあったであろうこともこめて、青春の独りの風景を辿ろうとしているのだった。

 ⋯⋯黄色い風景のどの場面にも父がいなかった。恋人と呼ぶべき男たちもいなかった。去っていったのか、やがて来るのか、それさえ定かではない幻の島に、少女が独りいる。放哉が父であり、雅人が恋人であれば、崩壊してしまいそうな独りの少女である。

 千枝が連翹を翳頭し、母が鍬を担いで杣道を歩いている。島の原郷に生きる女たちは、危く立つ独りの少女に呼びかける。少女はおしゃべりに疲れている。少女は黄色い風景の中を駆け出していく。 檸檬社1981年刊『連翹の島』  書籍帯に「小豆島を舞台に、尾崎放哉をめぐる母と娘二代を回想する抒情の世界」「しなやかな鳥の尾羽のような枝々に黄蝶に似た花をまとったレンギョウ

連翹の島